A:美しき虐殺者 ルミナーレ
泥や岩なんかで作った人形に、仮初めの命が与えられたものを、ゴーレムと呼びます。「ルミナーレ」は、そのクリスタル版といったところでしょうか。
一方で、あれはゴーレムよりも、むしろスプライトなど妖精綱の存在に近いという、学説を唱えるエーテル学者もいるようです。ともかく確かなのは、第七霊災以降に現れ、無差別に近づく者に、襲いかかってくるということ。
はたから見ているぶんには、綺麗ですが……危険ですよ。
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
それは湖の湖畔の地面から2mほどの場所を風に押されるともなくユラユラと流れるように動いていた。その躯体は透き通っていて一点の曇りもない。水面で反射した光と太陽の光はそれの体内に入ると屈折してキラキラと虹色に煌めいている。体高は3mほど、両の腕を翼のように大きく広げている。その腕も首も胴体に繋がっている訳ではなく、胴を中心にあるべき場所に浮いているという状態だ。その体のフォルムからするとどうやら女性をモデルに作られているらしく、胸のあたりはこんもりと膨らみ、腰のあたりで上部パーツと下部パーツが分かれていて、その継ぎ目がくびれのようになっている。
「綺麗ね~…」
湖畔の岩陰から顔を出して相方がうっとりした口調で言った。
普段盾役を受け持ったり、かっこよく男装っぽい服を着たりしている相方だが、お洋服選びのセンスは良いし、コーデも上手だし、お料理も上手で実は女子力が高い。
それに比べ、良く言えばインドア派、悪く言えば引き籠りでだらしなく、同じような服ばっかりを無難にチョイスして、かび臭い黒魔術の本を眺めてはニヤニヤしていて、一歩間違えば「腐」と言われそうなあたしはキラキラした宝石を見ても「や~ん、これを使えば精度の高い水晶占いが出来そう」などと考えているレベルなので最初から勝負にならない。
それはさておき、このルミナーレと呼ばれているクリスタルの集合体が今回のターゲットなのだが、どういった魔物なのかというあたりが全く分かっていない。分かっているのは第七霊災直後からこのギラバニア湖畔で目撃されるようになったということくらいで、その分類についても諸説ある。一説にはクリスタル製のゴーレムといわれ、また一説では精霊に近い存在だともいわれる。
一般的に泥や岩などで作った人形にエーテルと仮初の命というか動力を与えたものをゴーレムとよぶのだが、通常ゴーレムであればその制作者がいて、尚且つ何らかの目的、例えば何かを守れ、だとか、誰も近づけるな、通すなというようなものがインプットされて初めてゴーレムとして動き出す。だが、このキラキラした正体不明の人形はただ湖畔を徘徊するだけでコレといった目的が見当たらない。もちろん、ただ湖畔を徘徊せよという目的を持たせ生み出すことは不可能ではないが、それをわざわざ高価なクリスタルを用いてやるメリットがない。
また別の説ではこいつはゴーレムではなくスプライトのような精霊的なものだとしたならどうだろう。あたしはどちらかといえばこちらよりの推測をしているが、精霊的なものといえば土や風や火や水などその自然の属性に基づくものが一般的だ。そう考えた時、ルミナーレは一体何の精霊なのかが判然としない。こいつの発生時期としては第七霊災をきっかけに発生したとされているが、そもそも霊災時とは様々な種類のエーテルが思いもよらない働きをしていて、それこそ想像を絶するような様々な不思議な現象を引き起こす。それらによる何らかの干渉により自然発生したという推論は立てられるが、存在を維持するには相応の属性エーテルが必要となる。この荒地のギラバニアにこのサイズの精霊の存在を維持するほどのクリスタル関係のエーテルは見当たらない。どちらの論にも一長一短があり、いづれにしても検証を得ない今の段階ではどちらも推測の域を出ない。
ルミナーレはエンカウントした辺りをクルクルと徘徊していたが、そのうち湖畔の岩場を音もなく滑るようにように移動を始めた。もしかしたら製作者やエーテルの源となるものがあるような「住処」的な場所があるのかもしれない、そう思ってあたしと相方は岩場に身を隠しながら尾行することにした。
陽が沈み始め、辺りが夕焼けで真っ赤に染まり始める。美しい夕陽の光をキラキラと反射させゆったりと宙を漂う透き通った姿は神々しくて美しい。時々ルミナーレがその体で反射させた光があたし達の目を射した。湖の岸を回り込むようにゆっくり進むルミナーレだったが、ゆらゆらと漂うそいつが突然クルッと方向転換した。
しまった!あたしと相方は一瞬、岩陰に入るのが遅れた。
「見つかった!」
あたしは小声で相方に合図した。あたしたちの方に体を向けたルミナーレは透明だった体の内側にモヤモヤと灰色の煙のようなものが沸き上がり、透明だった水晶の体がみるみる曇っていった。光を通さなくなった体は陰で黒く染まった。
それと同時にまさに金切り声と呼ぶにふさわしいような金属をこすり合わせたような音に近い、超音波のような雄叫びを上げながらあたしたちの方に突進してきた。
相方が前に走り出て盾を構えるとあたしに声を掛けた。
「引き付けるからやっちゃって!」
あたしは既にそのつもりで初弾となる魔法の詠唱を半分ほど唱え終えていた。